SIDE 颯馬


最近、マジで仕事が急増した。


兄貴の野郎、冗談かと思ったらガチだったのかよ。


確かに冗談は言わない男だし、今の荒瀬が危ない橋を渡ろうとしているから、情報収集やなんやかんやに忙しいのは百も承知だ。


でも、おかげで寝不足だっての。


ってことであくびをしながら兄貴の家へ。


あーあ、どうせ壱華ちゃんとイチャイチャまったりしてんだろうな。


俺に仕事押しつけたから一緒にいる時間が増えたし。




「……なんで?」



リビングに入ると、壱華ちゃんの不安が漂う声が聞こえた。



「志勇だって大学生なんでしょ?」

「……なんで知ってんだ」



いつも座ってるソファーの前で立ち上がって話し合っている男女。


対面する兄貴は顔を歪ませ怒っている模様。


珍しいな、喧嘩か?



「わたしだけ馬鹿なんてやだ」

「お前、別に馬鹿じゃねえからいいだろ」



取りつく島もないから、当面観察してみることした。


状況も分からず首つっこんだら面倒くさそうだからな。



「やだ、わたしだってやりたいことがあるもん」

「だったらそのやりたいことってのを具体的に言ってみろよ」

「……」

「壱華」

「だってどうせ否定するでしょ」

「しねえよ」

「顔がそう言ってる。断固拒否だ、って」

「してねえ」



「じゃあもう一回言うよ?大学に行かせてください」

「ふざけんな、勉強なんざ俺の膝の上でやってりゃいいんだよ!」

「ほら全否定した!」



なんだ、大学に行きたいって話かよ。


金はいくらでもあるんだから行かせてやりゃいいのに。


……けど、なんか、修羅場?