それにしても、志勇のご両親に会うとなると緊張する。


まさかこうして本家に連れて行かれるなんて思ってもなかったから。


気を落ち着かせようとそっと深呼吸したところ、辺りが明るくなっていることを感じた。


そこには、向かいの平屋との間を囲うように作られた、中庭があった。


植えられた観葉樹は、初夏を迎え青々を茂っている。小さな池は空の色を反映して青く輝く。その一種の芸術作品に、改めてすごい所へ来てしまったと実感した。




すると、中庭の向こう側に白い影がひとつ。


あ、力さんだ。


どうやらあっちは厨房らしく、廊下を走ってそこへ入ったと思うと何かを持ってすぐ出てきて、すごく忙しそう。


……手伝ってあげたいな。


わたしにも役に立てることがあるなら、助けになってあげたい。


今は隣にいてくれる志勇に、荒瀬組の人々に、尽くされてばかりだもの。そろそろ恩返しというものがしたい。


なんて、人の役に立ちたいと思えるようになったのも、心に余裕があるからなんだろうな。


あの家族に縛られていた頃は、こんな風には考えられなかった。





「司水です。連れて参りました」



司水さんの緊張感漂う声が耳を通る。


目線を上げると視界に広がるは黒色。


黒地に金箔が散りばめられた(ふすま)の前に志勇とわたしは立っていた。




「……入れ」



すると聞こえたのは志勇よりもやや低く、威厳のある男性の声。


それを聞き取った司水さんの手により、襖はそっと開けられた。