背中全体を覆う、妖しくゆらめく黒い炎。


炎の中に凛々しく立つ黒狼は、青色の鋭い眼を持ち、見る者に畏れを抱かせる。


たかが刺青。けれどなめらかな志勇の背に彫られた狼は、生きてるみたいに繊細で気高くて。


どうしようもなく惹きこまれた。



「他人にこうして見せるのは久しいな」



わたしだけが知っている志勇がここにいる。


なんだか特別にされているみたいで嬉しい。



「女に見せるのは、お前が初めてだ」



志勇の狼を目にした女はわたしだけで、そのわたしが狼に触れている。


それだけで心が満たされる。


これが独占欲というものなのかな。



「触ってもいいぞ」



そう言われて素直に手を伸ばせば、もう怖くない。


直接指先が感じている背中はあったかくて、気がつけば、自分から声を発していた。



「だから志勇は『狼』って呼ばれてるんだ」

「そうだな、気に入ったか?」

「うん、すごく……好き」



両手で包むように背中に手を置く。


すると、志勇の背中に鳥肌が立った。



「っ、壱華……」



そして体を反転したかと思うと、視界が暗くなって、目の前に志勇の胸板がきた。


つまり上半身裸の志勇に、ハグされてしまった。