闇色のシンデレラ

「ごめんなさい……っ」




謝るわたしに、志勇は無言で抱き寄せ強く抱きしめる。


苦しくて痛がるわたしをよそに、首元に顔をうずめた。


そして。



「痛っ……」



狼は牙を剥き、紅い痕をつくった。



「誰がお前を手放すって?
冗談じゃねえ、だったらこの痕は何のために残してる」



静かな怒りを(あら)わにした彼は、まるで執着の証だというように、つくられたばかりの紅い痕を指でなぞる。


わたしの体温より少し冷たい指先が首筋をそっと伝う。


徐々に指先をずらし、たどり着いた鎖骨の辺りには、昨日つくられたばかりのキスマーク。


日に日に増えていくそれは、わたしの身体の至るところにある。


それは首などの目立つ場所に、それは過去を上書きするよう、古傷の上に。



「そんなに信用できなけりゃ、首輪でも必要か。
鎖で繋いで監禁しなけりゃ、俺にとってのお前の存在意義は分からねえか」



分からないわけじゃない。


怖いんだ。


信用なんて、遠い昔に不可能だと決めつけたから。


この世は裏切りばかりだと、そう思って人生を歩んできたから。





「まあ、いずれそういうプレイもしたいのは山々だがな」



……なんて、言葉を重く受け止めていたのに、そんな発言された力が抜ける。


なんとも、志勇らしいというか。



「……大丈夫だ、壱華。俺はここにいる」



監禁するとかしないとか、支離滅裂(しりめつれつ)なことを言ってるのに、最終的に優しく撫でられたら、自分の考えていたことがちっぽけに思えてくる。


『大丈夫だ、壱華』彼のその一言が何度わたしを救ってくれたことか。


それでも、いつまでたっても彼の背中に手を回せないわたしは、臆病者だ。