闇色のシンデレラ

手を出してはいけないとならば、こいつらを痛めつけることに意味はない。


俺が背中を向けると、一行は腰の抜けたチビガキを連れ、尻尾を巻いて退いてった。


離れ際、マル暴の佐々木が申し訳なさそうにこちらに頭を下げたのが疑問に残った。


だがもう奴らに興味はない。


俺の目は、かけがえのない唯一を写している。





「壱華」



しかし俺の呼びかけに微かに肩を揺らすだけ。



「帰るぞ。目当ての物は買ったんだろ」



目線を地面に投げたまま、俺の言葉に反応せず、立ち尽くしている。


クソ、あの馬鹿女どもが。壱華を拾った頃の状態に戻しやがった。


ここまで時間をかけて、ようやく俺を視界に入れるようになったというのに。


わずかだが、嬉しい、寂しいなんて表情を表に出すようになったってのに。




「壱華、忘れたのか?」



されど、こんなことで諦める俺じゃねえ。


獲物を徹底して仕留める『狼』は、諦めなんざ最初から持ち合わせていないんだ。



「俺が執着する女はお前だけ。お前以外の人間には興味がない」

「……」

「お前は人形でも駒でもない。俺の女だ」



そう告げてやると、そ陰った瞳が少しずつ輝きを取り戻す。



「自分でそう言ったろ?俺を渡さない、譲らないと。
無論、俺も壱華を誰にも渡さない。俺の隣はお前だ」




言い聞かせれば、しばらく呆然と俺を見つめていた壱華だが、やがて一歩前に足を出し、震える手で俺の服の裾を掴んだ。


思いもよらない仕草に、俺は壱華の腕を引き、そして力いっぱい抱きしめた。


初めて壱華に信頼されたと感じられた瞬間だった。



……そろそろ頃合いか。


ふと、胸に収めた壱華の匂いを嗅ぎながら思いついた。


ぼちぼち壱華を『金獅子(きんじし)の君』にお目通しするべきだな。