闇色のシンデレラ

「……はっ、呆れた。なんで壱華をかばうの?その子はただの道具じゃない、たかが捨て駒。
どうせ捨てるならここに置いてってよ。遊んだ後に殺してあげるから」



……なんだ、こいつ。


『北の計画』を知っているのか?


俺たちでも上層部しか知り得ない情報が、なぜこんな一般人の耳に入っている。



「そうでしょ壱華。
死んだ方が楽だよねぇ?実莉たちに遊ばれて、苦しかったでしょ。死にたいって思ったでしょ。
なんで今まで死ななかったの?死んだ方が世のためなるのに」



となれば、早急に手を打たないとならない。


シンデレラに明かしてはならない秘密を、この姉妹が知っているなら、こちら側の計画も狂う。


何しろこの女、性根が腐っている。


ここは排除するのが妥当だろう。



「……おい、クソガキ」



そしてついに、帝王自らが動いた。


震えるシンデレラから名残惜しそうに手を放し、真っ黒な感情を背負い拳を固める。


放たれる気は、とても常人では耐えきれない。


俺ですら、周りの空気さえ凍てつかせるこの兄貴と対峙すれば終わりを感じる。


邪悪にして最強。最も買ってはいけない、帝王の怒り。



「死ぬべきはお前だ」

「ひっ……!」



鋭い眼光に捕らえられた女は、ビクリと肩を震わせる。


慌てて後ずさりするも、かかとからバランスを崩し、無様に尻もちをついた。


ああ、この女終わったな。


何者も触れてはならない、帝王の所有物を傷つけたのだから。




俺はこのとき、兄貴の異常な独占欲を、物に対する感情だと勘違いしていた。


彼女に対する独占欲が、人に対する愛情に変わりつつあることなど、露知らず。