闇色のシンデレラ

シンデレラは対面する2人の女にひどく怯えていた。


一目で、この女が彼女の精神を追い詰めた原因だと感じた。


聞くに耐えない罵詈雑言(ばりぞうごん)、それでも懸命に言葉を繋ぐ彼女が、母さんと重なった。


絶対的な権力を有する組長が、唯一かしずく女。


カタギの身の上というだけで忌み嫌われ、何度も引き離されそうになり、それでも親父を信じ続ける、荒瀬組の姐。


……俺はマザコンだったけ?なんで母さんの顔が出てくるんだ。




「なんでぇ?なんでダメなの?」



そんなとき、嫌に耳につく甘ったるい声。


この女、実莉と言ったか。


()が濁っている。



「実莉がほしいの。そこにいる志勇様がほしいの。
壱華じゃきっと満足させてあげられないだろうから、実莉が代わってあげる」



いつのまにか、壱華ちゃんに寄り添うように腰を抱いてる兄貴に向かって馬鹿げたことを言う妹。


あのね、言ってやりたいけど、兄貴は色気のないお子さまは嫌いなんだよね。


それと性格のひん曲がったクソ女。


そのどちらともを兼ねている妹とやらは、おおかた、自分の主張だけ通して生きてきたんだろう。


甘やかされた組のお嬢はこんな感じに性格最悪だからな。



「ねぇ、ちょうだいったら。いいでしょ?
何も言わないってことは取っていいってことだよね」



妹に似ても似つかない壱華ちゃんは、唇を結んで首を横に振り、兄貴の顔を一心に見つめる。


兄貴は自分を見上げる彼女を落ち着かせるように微笑んで、嬉しそうったらありゃしない。



「聞いてるの?ねえったら……」



そんな兄貴を怒らせないために、近づいてきた妹の前に腕を伸ばし、動きを制した。



「……は?」

「お引き取りくださいませ。壱華様は、ここにおられる若だけのもの。
たとえ貴女様でも触れることは許されません」



これだけ圧力をかければ、こいつも身を引くと予想した。


だが、妹は表面に現れ始めた恐怖を隠し、ふっと笑みを零した。


嫌な笑みだった。