「志勇様を譲るならぁ、実莉たちから逃げたこと許してあげる。
ねぇ、だからちょうだい。実莉に志勇様をちょうだい」



『ちょうだい、実莉にちょうだい』


いつも実莉が何かを奪う前に使うセリフ。


これを聞くと息が苦しくなる。


けれど、一度絶望を味わった身だ。


この程度の脅しには冷静でいられる。



「クソ(あま)、いい加減に……」



するとわたしに代わって剛さんが怒った。


言いたい放題の女に黙っていれなかったみたいだ。


だけどここで守ってもらっては意味がないの。


剛さんを手で制止し、こう告げた。




「渡さない」

「……え?」

「志勇だけは、絶対に渡さない」



そしてつないでいた涼の手を放し前へ踏み出す。



「志勇は金で男を選ぶような、人を見下して生きるような、性根の腐った人間は受け付けない。
だから美花も実莉も、あの人には見向きもされない。
志勇の隣は誰にも譲らない」



志勇以外何もいらない。


志勇を通じて得た関係以外いらない。


それは過去との決別であり、本望だった。