「壱華、どうしたの?」

「壱華さん……?」



涼と剛さんの声、繁華街の雑踏が、現実味のない遠くで聞こえる。



「聞こえてる?あんたに言ってんの」

「なんで黙ってるのぉ?久々の再会なのに」



その先には、赤いスカートを揺らす美花と、淡いピンクのワンピースに身を包んだ実莉。


どす黒い内面とは裏腹に、華やかな衣服を身につけた悪魔は、わたしの正面に歩みを止めた。



「あーあ、やっぱり死んでなかったんだ。
黒帝に追われて、あのまま自殺でもすればよかったのに。あんたが死んだって誰も悲しまないわ」

「志勇様に拾われていい気になってるんでしょ。
ざーんねん、気づいてないみたいだけど、壱華は遊ばれてるだけなんだよ?」



二人は混乱しているわたしをよそに、聞きたくない言葉を次々言ってくる。



「……あんたら、誰?」



異変を感じた涼がわたしと二人の間に割って入った。



「誰って、壱華はわたしたちの妹よ。
そいつに用事があるの。大事に守られて生温く育った潮崎のお嬢様は、退いてもらえる?」

「……は?」

「こういう時だけ権限を振りかざして、高圧的に人を脅すことしかできない、組のお荷物は道を譲って。そう言ったの」



ところが美花は涼を意図的に傷つけた。


涼は言葉を飲み込むと表情を変え、今にも飛びかかりそうだ。


わたしは怒りに震える涼の手を握って彼女の衝動を抑え、美花と実莉を睨みつけた。



「相変わらず無愛想で嫌な顔。何、その反抗的な目。
またわたしたちに全部奪われたいの?」

「養ってやってるくせに勝手に逃げちゃってさ……ママも許さないって。
だけど実莉は優しいから、交換条件を飲んでくれたら、許してあげることにしたの」



許せない、感情を奪われたわたしが久しく覚えた怒り。


守りたい、大切な人を傷つけられ、同時に湧き上がる思いは、わたし自身を大きく動かす。