家に帰ってくると、楽しかったことを思い返す反面、あの家族のことを思い出して暗い気持ちになってしまった。



「ぼーっとしてるな、どうした」

「……」

「言えよ、言わねえと離さないぞ」

「言っても離さないくせに」

「あ?生意気言うじゃねえか」



ついぽろっと出てしまった傲慢(ごうまん)な言葉。


あわてて顔を上げると、志勇は怒ってはいないようだけど不思議そうにわたしを見つめていた。



「ご、ごめんなさい私、志勇にいっぱい迷惑かけてきたのに生意気言って……」

「そんな顔するな、俺がお前を手放したりなんかするかよ。
今のはお前もしっかり自分の意見が言えるようになったんだってちょっと嬉しかったんだよ」



そう言われても恐怖は足元から忍び寄る。


わたしはこの人に捨てられたら本当に成す(すべ)がなくなってしまうと気がついた。


……怖い、怖くて仕方ない。



「信じろ。俺と向き合え、逃げるな。何度言ったら分かる」



その不安に気がついた志勇は強い口調で私の目を見つめる。


そして噛みつくように、唇を塞ぐ。


舌が口内に侵入して、絡み合いながら圧迫される。


吐息に熱を感じて、重ね合う度小さく響く音が耳に残って。


こんな苦しくて激しいキスを強要されながらも、嫌じゃないから拒否できない。


身体が芯から熱い。



「ふあ……んっ」



深いキスって、こうやってするんだ。


体験して初めて実感した幸福感。


他のことは考えられなくて、わたしはこの人に求められているんだって、歓喜に満ちている。


だけど息継ぎすらできないくて、宙をあがく手を背中に回していいものか分からなくて。



「あっ……」



ついに腰が抜けたわたしは、志勇に抱きとめられる形となってようやく口を開くことができた。