「ありがとう、涼」

「こちらこそ、いつでも連絡して〜」



無事に連絡先を交換してもらって、勝手に満ち足りた気持ちになっていた。



「壱華、行くぞ」

「え、もうちょっと……」

「っ……そんなかわいい顔して反論してもダメだ。
いいから来い」



そこに介する低い声。


反論したのも虚しく、腕を掴まれ、強い力で引き戻された。


ちゃんとお礼もしてないのに。




「颯馬、あんたもちょっといい?」

「俺?いいけど」



せめて涼に別れの言葉を告げようとしたけれど、その前に本人が颯馬さんを呼んだ。


ああ、わたしったらタイミングが悪い。



「名残惜しそうな顔しやがって、俺より涼がいいのか?」



車に戻ると志勇がいらだった口調で言った。



「同性だから話しやすかっただけだもん。
あんなに楽しかったの、久しぶりだったから」

「……そうか、楽しかったならよかった。
だが一瞬で打ち解けたのは気に食わん」



よかったと言って笑った志勇だけど、急に声のトーンを落としてまたイライラしだした。



「もう、どっち?」

「……あー、かわいいから許す」



こらえきれないとわたしを力いっぱいだきしめる志勇。


無理やり引き剥がされたのに、ぎゅっと抱きしめられたら許してしまうなんてわたしはなんて現金なんだろうと思った。