SIDE 壱華


ヘアメイクしてもらったわたしを見るなり、ぴたりと固まった志勇。



「若?」

「わおー、壱華ちゃん?」



それを唖然と見る剛さんと素が出た颯馬さん。



「颯馬てめえ、壱華を視界に入れるな」



後ろからの颯馬さんの声にはっと我に帰った志勇は、強くわたしを抱き寄せた。


その影響で、思い切り志勇の胸へダイブ。



「いやいや、どんな命令だよ」



突然すぎてびっくりしたけど、志勇の匂いがすると落ち着く。


ていうか、痛い。何かが背中に当たってる。



「志勇……何?」

「ああ、これか。お前にやる」



差し出されたのは小さな紙袋。


受け取って中を覗いたら——



「携帯?」

「ん、俺の連絡先はもう入ってるからな」



なんと、新品のスマートフォンが出てきた。



「わたしに?」

「そうだ」

「いいの?」

「ああ、ちゃんと使えよ」



携帯か、そういえばガラケーなんての持ってたっけ。


おばさんにもらった、居場所が分かればいいと、GPS付きの。


仕事の連絡用にだけ使ってたな。


あの日を境にどこかに捨ててしまったけど。



「志勇、ありがとう」

「ああ、好きに使え」

「うん。じゃあ涼、連絡先交換しよう」

「え、いいの?」



よし、もらったのならこっちのもの。


もらったばっかりで使い方分かんないけど、涼と交換したい。



「……おい、もうそんな仲良くなったのかよ」

「へっへーん!羨ましいでしょ〜、志勇」

「腹立つ顔しやがって……壱華、こいつと連絡先交換すんのやめろ」

「やだ!」

「はぁ?おいこら、帰ったらお仕置きだからな」



こんな明るくて優しい涼となら、仲良くなれそうな予感がするから。


……お仕置きなんて言葉が聞こえた気がしたのは、聞き流しておこう。