「……遅くない?」

「うん」



涼の問いにうなずく。


鏡の中には、涼の手によって変身したわたし。


腰まで伸びていた長い髪は20㎝ほど短くして綺麗に切りそろてもらって、印象が明るく見えるように前髪も作ってもらった。


あとは志勇を待つのみなんだけど。


きまぐれなご本人がなかなか帰ってこない。



「剛、志勇いつ戻ってくるの?」

「へい、潮崎のオヤジに念達(ねんたつ)したらすぐ戻るって話だったんすけど」

「ふーん……あ、そうだ」



ネンタツってなんだ?


おそらくヤクザ用語らしいそれに首を傾げると。



「壱華、ヘアアレンジしてもいい?」

「え?」



コテを持った涼が目の前に来た。


涼、めちゃくちゃいい匂いする。



「ついでにメイクしちゃっていい?」

「へ?」



満面の笑みの涼は、なんだかワクワクしてる。


なんでもわたしの髪をアレンジして化粧してみたいらしいので、お願いしますと頭を下げた。



「ふふ、志勇絶対喜ぶよ〜」



コテを片手に頭をぽんぽん撫でてくれる涼は、すごく楽しそう。


手先だけは器用なわたしは、美花と実莉のヘアアレンジやメイクを担当していたけど、こんな楽しそうな顔できなかった。


気に入らなかったら本気で殴られたりするから、必死だったな。


あれは姉妹というより使用人だった。


だからなおさら思う。





涼がお姉ちゃんだったら幸せだったろうなあ。