涼さんがわたしの身に起きたことを知っているならば、理叶もわたしの居場所を掴んでいるはず。


だったら近いうちに、黒帝と再会するかもしれない。また暴力を振られて執拗(しつよう)に追いかけられるかもしれない。


嫌だ、もうあの地獄は繰り返したくない。


理叶と光冴に会いたくない、二度と顔も見たくない。




「大丈夫、しばらくはあなたに会わせない。当然の罰よ、簡単に許してもらおうなんてガキの考えることね」



鏡を見ると、わたしの表情は見るからに不安げで、それを目視した涼さんは眉を下げた。



「時間が解決してくれることもあるし」



そう言った涼さんはドライヤーを取り出し、丁寧に髪を乾かし始めた。


わたしは鏡の向こうで風にゆらめく、自分の長い髪を無心に眺めていた。




「さて、カットに入る前に……何か聞きたいことがあるの?」



時間をかけて髪を乾かした後、カットクロスがかけられた。


その拍子に指が首元に触れて、光冴に首を絞められたことがフラッシュバックした。


肩が跳ね上がったけど、涼さんは軽く謝っただけであまり触れなかった。


この人はやっぱり知っているんだ。


黒帝が何をしたのか、わたしがどういった経緯で志勇に保護されているのか。


涼さんは受け答えしてくれる姿勢を示しているし、わたしにも知る権利があるんだから、この機会を逃すのはもったいない。