《柿原》

空になったコーヒーカップ。
決心して寮を出てきたはずなのに、いざ聞こうと思うとタイミングが難しい。
こんなコソコソしてることが柿原隊長に知られたら、絶対まずい。

それに、彼女が欲しいって言うのは本心なんだけど、柿原隊長を真似ようっていうのはなんか違う気もする。冷静になって考えてみれば、柿原隊長が結婚できてのなんて例外中の例外。もっと参考にすべき人間は他にいるだろ。
俺、本当にこれでいいのか?

あー!でも、実際に八城さんという素的な奥さんをゲットしてるじゃないか!
そんな奇跡が起こるなら、俺にだってチャンスくらいあったって…。
はぁ。考えるだけで疲れてくる。
でも、せっかくここまで来たんだ。
手ぶらで帰る訳にもいかない。

「今日はお二人揃って仕事終わりですか?」
ようやくお客さんの波も引いて、手が空いたらしい八城さん。
ついに俺たちに声をかけた。
「ぁ…、あの、ですね」
上手く答えられない俺に代わって、優雅にコーヒーカップを手に取る榊副隊長が答えた。