「ふぅーー!だいぶ片付いた〜!」
スマホを確認すると、
待って、もう1時間もたったの?!
やっちまった…。
想像以上に集中してしまった。
すぐにリビングへ向かう。
「すみません!!片付けにしゅ……?!」
部屋から出ると、
ダイニングテーブルには
美味しそうな料理が並んでて
大きなホールケーキが目に飛び込んでくる。
『おっ!笑美ちゃん片付けは終わった?』
「中村先輩!はい!大体終わりました!」
『笑美ちゃんと笑紅くんアレルギーとか大丈夫だった?』
エプロン姿の園田先生、ご登場です。
「えっ、はい!2人とも全然大丈夫です!」
『よかったぁ!聞くに聞けなくて心配だったから。あっ!笑紅くん用のご飯もあるよ!』
「ほんとにありがとうございます!……すごい美味しそうですけど、もしかして?」
『一応、俺がこの中では料理担当なんだ。』
なんて照れてる園田先生。
イケメンな上に料理まで出来ちゃう。
モテる要素しかないじゃないですか!
「まさか…おひとりで作られたんですか?!」
『そのまさかだったりする。』
「すみませんでした!!お手伝いもしないで片付けしてて!」
『いいんだって!今日はほら、2人の歓迎会も兼ねてだから!!お手伝いはまた今度お願いしてもいい?』
『そーだよ!そーだよ!今日は何にも考えずにみんなで楽しも??』
「へ?」
肩を組まれて、顔を覗きこまれた。
渡邉先輩との顔の距離はきっと5センチ未満…。
ぎゃーーー!イケメンなお顔が
5センチ先にあるなんて。
しかもなんでこんなにいい匂いするんですか?
イケメンって体臭までいい匂いなの?!
「ち、ち、近いです!近すぎです!」
『ちょ!笑美ちゃんが困ってるから!海人は距離感おかしいから気をつけてっていつも言ってるじゃん!』
『そんな怒んなって!ごめんね?笑美ちゃん、ビックリしちゃった??』
そんなシュンとした顔で言われたら…
「ぜ、全然大丈夫っす。」
ってしか言えないよ〜。
『志恩の料理、久しぶりに食うわ〜。』
さっきまで隣にいた渡邉先輩は
もう園田先生の隣に。
えっ、瞬間移動出来るんですか?
『シーくんの料理、ほんとに美味しいよね〜!』
「シーくん??」
『っ?!まって?!月海!!シーくんって呼ぶの禁止って言ったよね?!!』
『あっ、ごめんごめん!でも、海人くん以外みんなシーくんって呼んでるんだしいいじゃん!』
なるほど園田先生は
渡邉先輩以外の3人には
シーくんって呼ばれてるんだなぁ。
尊いなぁ。メモメモ。
『月海、たぶんしーくんさ…パパって呼んで欲しいんだわ。』
『夏鈴!?君は通りすがりにすごいことを言い逃げするね?!てか、誤解を招くでしょ?!』
『あっ、ごめんね?パパ!』
『月海まで夏鈴の変なノリに乗らなくていいから!!もぉ、高3コンビ恐ろしいんだけど?!』
「パパ?!えっ、月海先輩のお父さんって園田先生だったんですか?!えっ、でも歳的に違うか…は!!もしかして昼ドラ的な……これ以上は聞かない方がいいですよね。わかってます、人には話したくないことぐらいありますもんね。はい。」
『待って待って、笑美ちゃんカムバック。すごい勘違いしてる。』
「いや、大丈夫ですよ園田先生。お気持ち察します。」
『もぉ〜!誰か〜助けて〜!』
『あはっはっはっ!!待って、腹よじれるぐらいウケんだけど、マジで笑美ちゃん最っ高!』
「へ??」
大笑いの渡邉先輩。
えっ、何事ですか?
『ごめん、ごめん!笑美ちゃん、志恩は月海のお父さんじゃないよ!志恩こんな感じだからパパみたいだねってふざけてみんな呼んでるの!』
「えっ?!そうなんですか?!」
『まさかこんなに信じるなんて思ってなくて、ここ最近で1番笑ったわ!』
割と本気で信じてた私。
……めっちゃ恥ずかしいじゃん!
これが世にいう
穴があるなら入りたいってやつね…。
「ほんっっとにすみませんでした!!園田先生!」
『いやいや、誤解が解けたんなら大丈夫!まぁ、月海のお父さんが俺だと可哀想でしょ!』
「そ、そんなことありません!!園田先生優しいですし、料理もほら!こんなに出来て、さっきからイジられてるのも愛されてる証拠です!きっといいお父さんになれると思います!!」
何を早口で言ってるんだ。
なぜか可哀想って言葉に
早く否定しないと!って思っちゃって、
思っちゃったら言葉にしてて…。
『えっ…と。俺、褒められ慣れてなくて…。こういう時なんて言えばいいか分からないんだけど、なんかすっごい俺嬉しいよ。』
"ありがとう"と微笑んだ
園田先生はすごい優しい表情で。
頭にポンと置かれた手はとても大きくて
なんだか温かくて懐かしい感じがした。
そして、同時に胸がキュッとなった。
『しーくん!お触り禁止です!』
『えっ?!あっ?!ご、ごめんね!なんかつい…。』
「いや、えっと、その、ご馳走様でした!!」
『志恩がそんなことするなんてめっずらし〜。』
『ニヤニヤしない!!』
『まだ手を出すのは早いんじゃない?』
『だからニヤニヤしないって!それに海人じゃあるまいし!ほ、ほら!みんなご飯食べるぞ〜!』
『笑美ちゃん、笑紅くん呼んでおいで!あっ、ついでにあの2人も。さっき夏鈴もまた庭のウッドデッキに戻って遊んでると思うから。』
「分かりました!」
中村先輩にさとされ、
笑紅と来良&多田先輩の元へ。
リビングの窓を開け、ウッドデッキへ。
2人と楽しそうに遊ぶ笑紅。
お父さんともよく庭で遊んでたな…。
『あっ!!笑紅、おねーちゃん来たぞ。』
『ねーね!』
笑紅がポテポテとこちらに歩いてくる。
「ほんとにありがとう!笑紅たくさん遊んでもらってよかったね!」
『笑紅、まーじ可愛い!もぉ、俺も夏鈴先輩も笑紅にメロメロ…ね?先輩!』
『えっ?!あっ、うん。すごいいい子だったよ。』
「本当に2人ともありがとうございました!すんごく片付けに集中しちゃった。笑紅もすごい喜んでるみたい!笑紅、多田先輩と来良にありがとうは?」
『らーら!かーく!あーがと!』
『また遊ぼーな!!』
『俺も笑紅くんとまた遊びたいな。』
多田先輩が笑紅の頭をクシャクシャにする。
『かーく!!』
多田先輩の手を両手で掴んで
キャッキャと喜ぶ笑紅。
笑紅と多田先輩の距離が縮んだ気がする。
なんか…微笑ましいなぁ。
「2人ともご飯が出来たので、上がりましょ?」
『ごはんーーー!』
「笑紅もお腹空いたね!!」
『えく、ごはたべる!』
『笑紅、腹ぺこみたいだな〜!』
『よし、上がるか。』
『笑美、先に行っといていいよ!3人で手洗いうがいしてくるから!』
「うん!わかった!」
3人は洗面所へ。
私はダイニングテーブルへ。
『あっ、おかえり。』
「ただいまです!」
中村先輩を見ると椅子には座らずに
テーブルに手をつき待ってくれていた。
「席に座らないんですか?」
『ん?ちょっとね、戦いがあるからさ!』
「戦い?」
何の戦いだろ……?
『おっ!全員揃ったね〜!』
そこに手を洗いに行っていた3人が合流。
『笑美ちゃんはここね!』
中村先輩が私の席を教えてくれた。
ダイニングテーブルは
左に3席、右に3席。
そして所謂お誕生日席に
笑紅のベビーチェアが。
私の席はベビーチェアから見て
右の1番手前の席。
「ここですか??」
『うん!』
笑紅をベビーチェアに座らせて私も着席。
『よしゃ、始めましょ!!』
来良は真剣に何を言ってるんだろ?
『せーの!』
『『最初はグー!ジャンケン!ポン!』』
へ?何を始めたかと思ったらジャンケン?!
『よっしゃ!!俺1番!!』
何やら来良が1番らしい…。
その後も熾烈なジャンケン大会は続き…
最終的に、
来良→園田先生→中村先輩→多田先輩→渡邉先輩
の順番になった模様。
「で、なんのジャンケンだったんですか??」
『ん?席取りジャンケン!あーあ、僕3番かぁ。』
『んじゃ、俺からいきまーす!俺はもう決まってるんすよ!俺は〜ここ!!』
来良が選んだのは、えっ?!私の隣?!
「ここ?!」
『うん、え?俺が隣嫌だ?』
「全然ウェルカムだけど、むしろここでいいの?!」
『ここがいいの!!ねぇ、いい?』
そんなクリクリうるうるの
子犬みたいな目で言わないでよ〜!
「も、もちろん!」
『ほんと??やった!!』
『決まった?次、俺ね〜。じゃあ、俺はここで〜!』
園田先生が選んだのは私の目の前の席。
『ここだったら笑紅くんの食事のサポート出来るし!』
『うわ、志恩こういうときに保育士みたいなことするのズルいって!!』
『いや、俺、保育士だから?!』
『しーくん静かに!』
『なんで俺?!』
『僕は〜ここ〜!』
中村先輩が選んだのは園田先生のお隣。
『俺、ここ。』
あっさりと多田先輩が選んだのは来良のお隣。
『最後の僕はここだね。』
最後の渡邉先輩は中村先輩のお隣。
『はーい、みんな自分の席ついて〜!』
中村先輩の号令のもと、着席。
『それでは最年長のしーくん!2人へ歓迎の言葉をお願いします!』
『えっ?!俺?!』
『うん、早く。』
『えっ、えっと…なんて言うか、もうここは…2人の"家"なんだから遠慮とかは…ダメ!2人が来てくれて俺たち5人ほんとに嬉しいんだ。だから、これからよろしくね!笑美ちゃん!笑紅くん!』
"家"は帰る場所であって、
帰る場所を失った私たち2人には
もう"家"なんてないんだと思ってた。
……でも今日からここが私たち2人の"家"。
「っ、はい!!よろしく…お願いします!」
なんだか心がポっと温かくなるのを感じた。
込み上げて来るものを堪えるのに必死な私には
この言葉が精一杯で
皆それを分かってくれたように
ただただ優しくこう続けてくれた。
『よろしくね。』
『よろしくね!』
『よろしく。』
『よろしくな!!』
『よろしくぅ〜!』
『よし、美味しい美味しいしーくん特製のご飯をいただきましょ〜!せ〜の!』
『「いただきます!」』
沢山の人と食事をするのはいつぶりだろ?
『もぉ、海人くん!お肉ばっかり食べないの!』
『僕、野菜苦手なんだもん。』
親子みたいな会話をする
中村先輩&渡邉先輩。
『夏鈴先輩が食ってるの美味しそう!』
『1口いる?』
兄弟みたいな会話をする
多田先輩&来良。
『しーく!おにく!』
『はいはい。はい、どーぞ!』
まるで保育園な園田先生&笑紅。
なんだかみんなを見てると
心があったかくなるなぁ。
「ふふっ。」
『ん?なにか面白かった?』
「ん?何でもない!これ美味しいなって!」
『そうなの!あっ、これも美味しいから食べて!』
「んん!!ほんとだ!美味しい!」
『でしょ!!』
「うん!ありがとう来良!」
『ほら!もっと食べよ!』
「うん!」
その後も歓迎会は楽しくて
ずっと笑っていた。
笑紅もいつもはイヤイヤ言って食べない野菜を
今日はニコニコで食べてたし
やっぱり人がたくさんいる方が
食事は美味しいって言うもんね。
これからこうやって食事するのが
当たり前になるのかな?
そうなってたらいいな……。
と静かになったダイニングテーブを
片付けながら思った。



