『ねぇ、月海!笑美ちゃんと笑紅くんの部屋って俺の隣の部屋でしょ??』

渡邉先輩がニコニコと
中村先輩を覗き込む。

『あっ!!笑美ちゃんに部屋の場所教えてなかった!!そもそも、シェアハウスのことも全然説明してなかったよね!?』

『何やってんだよ〜!』

渡邉先輩に突っ込まれて
ごめん、
と顔の前で手を合わせる
中村先輩。


「ぜんっぜん大丈夫です!よかったら今からシェアハウスの説明会して貰えませんか??」

『ほんと?次は僕がお言葉に甘える番だね。』

「甘えちゃってください!…って私が説明してもらう側なんですけどね。」

『それじゃあ!お言葉に甘えて今からこの家の説明会を始めます!!』

「お願いします!」

『まずトイレとお風呂の場所からだね。廊下に4つのドアがあるのわかる?』

「…はい!確かに!!」

『あの4つのドアには番号があって、こっちのドアが1番から始まって1番奥のドアが4番になってて、』

「ほぉ…。」

『1番がトイレ。2番が洗面所。3番が脱衣場とお風呂。4番が物置。物置は適当に使っていいからね。』

「なっ、なるほど……。」


覚えきれるかな…私。


『覚えられなくても大丈夫だよ。ドアには番号が書いてあるから。まぁ慣れちゃえば問題ないけどね。』

「えっ?!テレパシーですか?!」

『ふふっ、顔に書いてあったよ!覚えられないって!他になんか分からないことある?』

「えっ、えっと〜、特には…。」

『あっ、脱衣場とお風呂の両方のドアに鍵がついてるから使う時は鍵を閉めてね。ほら…やっぱり間違えて入っちゃったりしたらあれだから。』

「こんな貧相な体を見たら、皆さんの方がお気の毒なのでしっかり鍵は閉めさせていただきます!」

こんな体、先輩たちが見たら
きっと石になってしまう…。


『え〜え。俺、笑美ちゃんと一緒にお風呂入る気満々だったのに〜!』

「はい?!」


なんだなんだ!新手のボケか?!
渡邉ジョークか?!


『もぉ、海人くん!笑美ちゃんがびっくりしてフリーズしちゃったじゃん!!』

『ジョークだよ!でも、入りたいならいつでも誘ってね?喜んで一緒に入るから!』

「えっ、あの…。はい。」

ブラックジョークすぎです。

『ごめんね、海人くん、女の子大好きだから。こういうノリに慣れてあげてね。』

優しくフォローしてくれる中村先輩。
きっと渡邉先輩も私の緊張を解くために
言ってくれたんだろうなぁ。


『てことで、本題だね!』

「本題?」

『笑美ちゃんと笑紅くんのお部屋だよ。』

「あっ、忘れてた。」


渡邉先輩のブラックジョークのおかげで
私たちの部屋の事なんて
頭から吹っ飛んでいた。


『それでは発表します!笑美ちゃんと笑紅くんの部屋は〜あそこです!』


中村先輩が指した先には
ピンクのドアが。

「あのピンクのドアの部屋ですか??」

『うん。あそこだよ。』

『ちなみに俺の隣〜!』

ニコニコと笑う渡邉先輩。

「そうなんですね〜!よろしくお願いします!」

『うん!どんどん頼っちゃって〜!』

あどけない笑顔に、
不覚にもキュンとしてしまう。
こんなイケメンが笑ったんだ。
そりゃ、胸がときめくさ。
でも…その笑顔は反則だよーー!
女子の私より1億倍ぐらい可愛い…。


『まぁ海人くんが夜、部屋にいること少ないけどね。』

『あっ、そっか。俺、ほとんどいねーわ。そういえば久しぶりにこんな時間に帰ってきたもん。』


……えっ?!
さっきの頼っては何だったの?!

ん?どうして夜家にいないんだろぉ…。
お仕事かな?
いや、中村先輩が渡邉先輩は
大学生って言ってたし。
なら、バイトかな?

まぁ、人には人の事情ってもんがあるか。


『あっ、念の為にみんなの部屋教えとくね!まず僕と来良と夏鈴は2階の部屋ね。1番左の赤いドアの部屋が、』

『俺ね、まぁ、部屋から出てきたから分かるか。』

赤いドアの部屋が、多田先輩。


『その次の真ん中の青いドアが、』

『はいはいはい!俺の部屋だよ〜!笑美も笑紅もいつでも遊びに来てね!』

青いドアの部屋が、来良。


『そして1番右の白いドアが僕の部屋。』

白いドアの部屋が、中村先輩。


『続けて1階の説明するね。1番左の黄色いドアが、』

『俺の部屋。』

黄色いドアが、園田先生。


『その隣の真ん中の緑のドアが、』

『俺だよ。お隣さんだね!』

お隣の緑のドアの部屋が、渡邉先輩。


『そして1番右のピンクのドアが、』

「私と笑紅の……部屋、です…。」

『もう荷物は運んであるから、安心して!』

「えっ?!そうなんですか?!すみません、ありがとうございます。」

『うんん。これくらいおやすい御用だよ。』

「えっくん、ありがとうしてください。」

『あーがと!』



『待って、めっちゃ可愛いんだけど…!』

来良はすでに笑紅の虜みたい。



『笑美ちゃん!まだ夕食には早いし、部屋の片付けとかしておいで!』

「えっ、いいんですか?」

『うん。大丈夫だよ。なんか手伝って欲しいことあったら言ってね?特に重いもの持つ時とか。』


中村先輩はどこまでもお優しい……。
イエス様、神様、中村様。
拝んでおこう。


『そうだ!!笑美が片付けてる間、俺と夏鈴先輩が笑紅と遊んどくよ!』

『なっ!なんで俺も?!』

『だって、今日、ずっと家にいたの俺と夏鈴先輩だけっすよ?』

『えっ、でも俺、小さい子と遊んだこととかないし!』

『笑紅〜、笑紅も夏鈴先輩と遊びたいよな?』

『えくね〜らーらと、かーくと、あしょぶ!!』

『ほら〜笑紅も言ってますよ〜!もぉ、めっちゃ可愛いですよね??』

『…うん、めっちゃ可愛い…!』

『遊びますね??』

『うん、遊ぶ。』

『よし!決まり〜!』


まんまと来良の作戦に
引っかかってしまった多田先輩。
ていうか
いつの間に笑紅は
2人の名前覚えたんだろ?

かーくが夏鈴先輩で
らーらが来良のことだよね?

待って、うちの子もしかして天才?!


『笑紅!おいで!』


来良が手を広げる。


『うん!』

『よーいしゃーー!』


来良に抱っこされてる笑紅は
なんだか嬉しそう。
私より来良の方が身長が高いから
見える世界がちがうんだろうなぁ。


『笑美!笑紅は任せて!ねっ?夏鈴先輩。』

『う、うん!頑張ってみる。』

『まぁ、いざとなっては俺もいるから。』

『あっ本職いたわ!!』

『まって、忘れないで?!夏鈴…俺、保育園の先生だからね?!』


タジタジな多田先輩は少し心配だけど、
園田先生と来良がいるから安心かな!
それに、笑紅の面倒を見てくれるのは
正直ありがたい。

「ありがとう、来良。ありがとうございます、多田先輩。あっ!オモチャとかは少しだけどこの荷物に入ってるから!よろしくお願いします!」

『了解!笑紅、おねーちゃんに頑張れ〜してやんな!』

『ねーね!おー!』

「おー!それじゃあお願いします!」


私は来良と多田先輩に
笑紅を頼んで私たちの部屋へ。


ピンクのドア…可愛い…!!


ドアを開けると


「…ひっろ……。」


驚きのあまり小声になったよね。
部屋は10畳ほどの広さ。
私と笑紅2人で使うには広すぎるくらい…。

入って左には大きなクローゼット。
ベッドと、勉強机まである…。
しかも、なんかすごいオシャレだし。


私、こんな贅沢していいのかな?

部屋を見て胸が高なったのは
確かなこと。

でもお父さんとお母さんが
生きていたらここには来れなかった。

ずっとあの家で
4人で暮らしてたんだ。


なんだろう。このモヤモヤした気持ち。


「ダメダメ!今は片付けに集中!笑紅を来良と多田先輩に頼んでるんだし早くしないと!」


弱い私はこの気持ちを
ハッキリさせるのが怖くて
誤魔化すことで精一杯だった。