人魚の涙〜マーメイド・ティア〜




また外にいる人からジロジロ見られているけどそんなこと気にもとめてないかのように蓮は進んでいき自分のバイクの前で止まる



「乗れよ。」



ヘルメットをずいっと差し出される



「蓮、あの「いいから乗れ。」



今は何も聞かないかのように、聞きたくないかのようにあたしの言葉を遮ってヘルメットを強制的に被せる


嫌がる理由も特にないので素直に従って蓮のバイクに跨る


蓮はあたしが乗ったのを確認すると1度威嚇するみたいに大きくブォォンと吹かす


それを聞いて一応しがみつく
何となく荒い運転をされそうな気がしたからだ
この威嚇は多分あたしに対してのもの。


しがみつくのが分かったのか少しだけ後ろに顔を向けてニヤッとした蓮は勢いをつけてバイクを走らせた


走り出したバイクは繁華街の一角で止まる


ヘルメットを取って街中を歩けばやっぱりここでも集まるのは視線


たくさんの目があたしたちをガン見する



「あれー?蓮くんじゃーん。最近ケンカ買ってるんでしょ?俺たちとも遊んでよー」



少し歩いただけで絡まれる始末。
やっぱり蓮たちは有名なんだなって思い知らされる、だからそれなりの覚悟は必要なんだ



「あぁ。いいぜ、来いよ」



そのまましばらく乱闘が続いた


でも、今度は目を逸らさない。


止める訳でもない、この前みたいに度が行き過ぎてると思ったらその時は止めるけどね


今回は理性がまだ働いてるから殺しにかかるくらいの勢いはないから大丈夫だろうと思い、1人から3人、3人から8人に増える頃にはあたしのいる場所は邪魔だろうなっておもって移動した


あたしが移動したことも蓮はちゃんと目で確認してた


蓮は強くて1度も殴られるとこを見なかった
やっぱ強いっていいな。男っていいな


守れる力があるのは羨ましいことだ
非力な女のあたしには限界がある
力ではどうしても負けてしまうのだ


まぁせっかくの機会だから蓮の喧嘩の仕方を見てた


どっちかというと急所を狙って確実に攻めるより、ウエイトがあるからほぼ力技に近いパンチで相手を失神させていた


女のあたしはウエイトがどうしてもつかない、鍛えてもボディービルダー並に頑張らないと無理だけど。てかそもそも身を守る術を学んだ空手と柔道じゃ相手の懐に潜り込む必要があるからなぁ


あたしは蓮を見つつこれからのことについて考えているといつの間にか残骸がズラッと出来ていてどうやら終わったようだ



「お疲れ様、なんか飲み物いる?」



蓮に歩み寄って声をかけたら眉間にシワを寄せてガンをつけられる


え、なんで睨んでるの



「お前…ほんとに俺が怖くねぇのかよ」


「うん、怖くないよ。もう怖くない」



ちゃんと目を見て伝える


あたしは本気で言ってるんだとそれにほんとにあたしが目を逸らさないのかを試してたのがわかってたし。


それでもあたしの回答が気に食わないのか、眉間のシワは取れないまま



「お前これからこんなんばっか見てくんだぞ」


「うん、みんなが見る景色ならあたしも一緒に見るよ」



人から褒められた道ではないことはわかってる、いや、ちゃんとわかった



「だって、あたしは姫だからね」



眉間のシワをちょんとつついてニヤッと今度はあたしが笑ってみせる



「ハッ、上等だ」



やっといつもの勝気な笑顔が戻ってそれを見て安心する


いつもの関係に戻れたんだと



「ねぇ、もし次蓮がその怒りに飲み込まれてしまいそうな時は今度こそあたしは止めるから」



ピクッとなるその頬を優しく触れる



「蓮のことが大切だから必ず止めるよ」



あたしの言葉は彼にちゃんと届いただろうか



「…もう見失わねぇ。俺は、大事なもんを自分の手で守る。傷つけたりしねぇ、この前は悪かった…お前の、千晃の声はちゃんと聞こえてた。怖がらせて悪かった」



頬に置いている手を上からしっかりと蓮が握り返す



「うん。こっちこそごめんね。」


「もういいから謝んな、気持ち悪ぃ」


「あーぁ。せっかく人が素直に謝ってるのに!」


「あ?いつまでもしょげてんじゃねぇよ」


「いや、しょげてたのどっちよ!」



そこまで言い合ってお互いにプッと吹き出して笑い合う



あぁ、ほんとによかった。
こうしてまた蓮と笑い合うことが出来ることが幸せに思えた。



そう思ってた時、予期せぬことは起きた



「あれ?春山じゃね?」



今幸せだと思っていたのが一瞬で凍るのがわかった