それからはもう悲惨だった。
遠ざかっていくランって人の姿は見えなくなり、ただひたすらに蓮は群がってくる奴らを蹴っては殴り、嫌な音が響き渡る
そんな蓮に圧倒されたのか1人、また1人とこの場から逃げていく
それでも蓮は殴るのをやめない。
絶対逃がさないやうに1人の男に馬乗りになって殴りつけながら聴いている
「あいつは、どこにいる、今すぐ息の根を止めてやる、吐け。殺すぞ。」
その言葉は妙にリアルでほんとにやり兼ねない。
「ねぇ、蓮…もういいよ、やめてよ」
蓮を止めなきゃいけない、そんなことは頭の中でわかってる。でも、体がその場に縫い付けられたかのように動かない
だから、せめて声だけでも、蓮を止められるのなら
バキッ、
また何かが折れる音がした
「蓮、聞こえてるでしょ、正気に戻って、お願いだから…」
それでもまるで何かに取り憑かれたかのようにあたしの声は聞こえてない
動けるものなら動いてる。
ー…それができないのはあたしが蓮を“怖い”と思っているから
ほんとは今にでもその振り上げてる手にしがみついて、ひっぺがして頭突きをお見舞いしてやりたいとこだけど…怖くて出来ない
ー…お願いだからもうやめて。
そう思えば思うほど“あの時”とリンクする
どうしても考えてしまう頭を振り払う
やめろ、今はこの目の前の状況をなんとかしなきゃ、なんとか。
「ねぇ、「千晃!」
もう一度声をかけようとした時だった
あぁ、もう遅いよ。
フワッと優しいものに包まれる
そして目を隠される
「もう、見るな。大丈夫だ、遅くなってすまない」
「…ぅん、ほんと、おそいよ、」
「悪かった…」
もう一度はっきり声に出して謝る
ーーー慎が来てくれた
慎があたしを引き寄せ目を塞いでくれている
その瞬間どうしようもなく涙が溢れた
情けなくて、悔しくて、
ーー…心底安心した
「蓮!やめろっ!もういいって!」
焦った奏太の声も聞こえてくる。
「やめろっていってんだろ!どうしたんだよ!!!」
ドサっと何かが落ちる音がした
多分奏太が馬乗りになっていた蓮を剥がしたのだろう
それを想像したらまた涙が止まらなくなった
ー…あたしは最低だっ
あたしは最低だ。
蓮は助けに来てくれた。
それなのにあたしはそんな蓮を怖いと思った。
足がすくんで動けなかった。
ー…ごめん、ごめんね。蓮。
あんたは今までだってたくさん助けてくれてたのに。
ここぞという時に今度はあんたを助ける番だったのに動けなくてごめん。
薄情なやつでこめん
弱くてごめん
守ってもらうことしかできなくてごめん
あんなに辛そうにしてた背中を見捨ててごめん
あんたの手が赤く染まってボロボロになってたのに何もできなくてごめん
ごめん、ごめん、ごめん、、、
どんだけ心の中で謝っても、もうどうしようもなかった
奏太に止められて正気に戻った蓮は顔を上げない
代わりにあたしの視界が開ける
慎が腕を退けたのだ
そんなあたしを見て蓮は悲しそうにとても辛そうにそっと近づいて手を伸ばす
でも、あたしは、その手にビクついてしまった
自分でも最低な行為だってすぐさま理解した。
あんな温かい手をあたしは拒否ったのだ
それを見て蓮は自虐的笑みを浮かべてあたしに背を向けて去っていく
どうしても追いかけれなかった
あんなに必死になってあたしのこと助けてくれたのに
あんなに優しい手なのに
あたしは最低だ、無力だ
その日以来蓮は倉庫には顔を出さなくなった。
まるで何かを避けているかのように顔を合わせることはなかった
