今あたしの首を絞めてほくそ笑む顔は紛れもなく蓮なんだけど、けど違う。
「かっ……はな、して」
この人の手首を掴んで離してと訴えるけど聞いてはない
ほんとに殺されると思った、蓮に似たこの顔に
こんな残酷なことはないだろう
ー……誰か助けて
視界がどんどんぼやけて生理的な涙も溢れ出る
「たす、けて」
掠れて声にもならない声が虚しく消えていく
ー……あぁ、あたし死ぬのか
「千晃!!!」
聞きなれた声があたしを呼ぶ、その刹那上に乗っていたその人は吹っ飛んだ
いきなり入ってくる酸素に噎せ返る、すごい苦しい
「ゲホッゲホッ、ハッ、ハァ」
荒い呼吸をしながらあたしを抱きかかえる人を見る。
ーー…あぁ、やっぱり蓮だった、今度は本物の蓮
「れ、ん…よかった、本物だ」
力があまり入らない手を持ち上げて軽くその頬に添える。
とても温かかった
でも蓮の目線は首元にとまって物凄く泣きたそうな顔でいつもの自信に満ち溢れた顔じゃなくてこっちまで切なくなってくる
違うよ、蓮。
あたしが見たかったのは、いつもの顔なの。
“俺様がいるだろ”
そういつもみたいに余裕な微笑みで助けてよ
「…っまた俺は守れなかった!!」
小さな震える声で叫びをあげる
もう一度グッと引き寄せられてあたしの肩に埋める
「大丈夫だよ、蓮」
「…ぜってぇ、許さねぇ。やっぱここでぶっ殺す!!」
あたしの声は届かない
それくらい蓮は自分の殺気に呑まれていく
「あははっ!いいねぇ!その顔が見たかったんだよ!ねぇ、蓮。お前だけ幸せとかねぇから。」
蓮と同じ顔をしてるその人はさらに冷たい顔をした
どうして同じ顔の2人が睨み合って喧嘩しているのだろうか。
きっと、あなた達は双子として生まれてきたはずなのに…。
あたしの中ではこれが今の謎を1番説明しやすかった
「てめぇだけはもうほんとに生かしておけねぇんだよ!」
蓮はその人を怒りに負かして殴りつける
バキッと嫌な音がした
「そんなにその子が大切?ますます壊したくなるなぁ、チアキちゃん?」
名前を呼ばれた瞬間ゾッとした。
なんともいえないような悪寒が全身を走る
「…気安く呼ぶんじゃねぇよ。クソがぁ!!」
あたしの名前を呼ばれたことでさらに激怒する理由は分からないがとりあえずこのバカを止めないとほんとに殺してしまいそうだ。
蓮を犯罪者にする訳にはいかない。
さっきは殴られていたその人も今度はひょいひょいと避けながら蓮の怒りスイッチを絶妙に押していく
「また守れなかったね?チアキちゃんの首、跡残るかもね?」
もうやめてくれ。お願いだから。
蓮が怒りにのまれて消えていってしまう
ただでさえあんな顔してたのに。
「あ、そうそう。お前らが今追いかけてる“大蛇”、それ俺だから。」
殴りかかっていた蓮の動きがピタッ止まる
“大蛇”?
あたしには言ってる意味は分からなかったけど蓮は知っているようでさらに感情が無くなっていく感じがした
「てめぇが頭だっていうのかよ。」
「そうだよ。驚いた?」
クスクスとこの場に似つかわない笑いが響く。
グッと蓮が拳を握りしめる気配がした
でも、これ以上は。
「蓮、やめて!!今は逃げよう!」
「あれ、チアキちゃんは割と冷静なんだ。んー。やっぱさっき殺しとけばよかったかな?」
ねっ?とも言わんような顔で蓮を見る
やめてくれ。煽らないで。
蓮の手から血が出ている、殴ったことで出た気なのか爪が食い込むほどの悔しさと怒りが流している血なのか分からない
けど、静かにポタポタと流れている
「蓮、やめて!落ち着いて!周りから足音が聞こえるの、お願い、逃げよう!」
怪我をしながらしかもあたしを庇いながら足音の数と闘うのは不利だ
重荷になるのはもうごめんなの。
「冷静すぎるね。つまんないや。まぁ確かに俺の可愛い駒たちがここに来るのはあってるよ。」
そういった瞬間ざっと囲まれる
「ランさん!行ってください!」
下っ端の1人が叫ぶ
「あぁ、そうさせてもらうね。この場にいたら俺殺されちゃいそうだし」
またクスクス笑って、じゃあ、と気軽に去っていく。
「待て!!!まだ終わってねぇんだよ!!てめぇをぶっ殺すまで俺はお前を、お前をぜってぇ許さねぇ!!!」
痛いほどの叫びは暗い夜に飲み込まれた
