人魚の涙〜マーメイド・ティア〜




「ち、千晃…、」



あたしは一瞬で状況を理解した



「あの、何してるんですか?」



関わらないとか思ってたけど麻奈美がここにいるなら話は別だ。



「あんた誰?」



あたしの質問に答えずに逆に質問してきた姐さんを見る


やべぇ、かなりパンチの効いた髪型にされている



「あなたたちこそ、誰ですか。まず相手のこと知りたければ自分から名乗るのが筋でしょう?」



心の中ではクソちきってるけど強気で返す



「チッ、一角獣の白田の女、マミ。」



マミと名乗るこの姐さんがどうやらこの空間を仕切っているらしい。ほかの子は何も動きを出さず、この人の顔色を伺っているからだ。



「私は春山千晃って言います。それで、そこにいる子に何かようですか?」



マミがあたしに一歩近づく。



「部外者には用はない、引っ込んでな。」


「部外者かもしれませんが、そこにいる子はあたしの友達です。開放してもらっていいですか。あたしもその子に用があるので。」



その場の雰囲気が凍りつくのがわかった



「てめぇ、さっきから誰に向かって口きいてんだよ!」



マミの隣にいた金髪の姐さんがあたしの胸ぐらをつかむ
必然的に顔は近くなる


綺麗な顔が台無しになるくらい歪んでる



「苦しいので離してください。」



あくまでも冷静に、穏便に話をしようとする



「つーか、お前どこのもんだ。どこ所属だよ。」



マミがあたしに問いかける


どこ所属?質問の意図がつかめない



「何をおっしゃってるのかよくわかりませんが、その子を離してくれませんかとお願いしているだけです。」


「しらばっくれてんじゃねぇーよ!!」



金髪の姐さんの掴む力が強まる


だめだ、この人たち話が通じない


それにさっきから気になっていたのは、麻奈美の頬についている引っ掻き傷みたいなの。


憶測でしかないけど、この人たちがやったのだろうか?


女の子に極力暴力は振りたくないが、あたしの大事なものが関わっているなら話は別だ。


あたしの胸ぐらを掴んでいる金髪の姐さんの腕を掴んで捻りあげる



「うっ!」


「あたしの要件は二つです、そこにいるあたしの友達を開放してもらうこと、あなた方がここから立ち去ることです。このお願いが聞けないのであれば今あたしが掴んでいるこのお姉さんの肩を外します。」


「なっ!!!マミさん!!!」



金髪の姐さんは目の前にいるマミに助けを求める。



「チッ、どこの女か知らないけどタダじゃ済まさないからね!!麻奈美!あんたもだよ!!行くよ!」



そう吐き捨ててあたしの横を通り過ぎていく



「あんた、おぼえてなっ!」



あたしに掴まれていた金髪の姐さんが最後に悔しそうに吐き捨てて去っていくとトイレが急に静かになった。



「ち、千晃、その、ごめん…」



静かに沈黙を破ったのは麻奈美だった


でも、その前に



「ごめん!!トイレ!!!」



ずっと我慢してた尿意が限界だよーと言っている


慌てて個室に入ると同時に麻奈美の笑い声が聞こえてきてなぜか安心した。



「あ~、スッキリした~!」


「あんた、ハンカチくらい持っておきなさいよ。」



いつも言われてることを久しぶりに言われて嬉しくなった



「もう~、夏休み中ずっと会えなくて寂しかったぞ!」



麻奈美に抱きつこうとするけどサッと避けられる


あぁ、悲しいけどこれも久しぶりの感覚でニヤけた



「キモ。何笑ってるのよ。」



そう言いながらも麻奈美も嬉しそうなのはきっとあたしの気のせいだろうか。


なんだか殺伐としてた空気が柔らかいのはきっと隣に麻奈美がいてくれるからだ。


あたしは心細かった、蓮のあの言われよう…、また黒崎に責められたりしてないか、それに奏多が怒って手を傷つけてるんじゃないかとか…


誰かが大丈夫と、あたしの元に知らせてくれない限りあたしは無知でしかない。



「あ、あのね。」



そんな考えにトリップしていると麻奈美が声をかけてきた



「んー?なにー?」



話にくそうにしてたのであえてラフな感じで返してみる


きっとなんでここにいるのかをどうやって話そうか、悩んでいるのだろう。別にあたしはここにいてくれて嬉しいのだけど、麻奈美がここにいていい存在じゃないのはなんとなくわかった。



「実は、「麻奈美ー!!」



麻奈美が切り出そうとしたら、誰かが麻奈美を呼ぶ声で遮った


声のした方を振り向くとそこにいたのは……



「昴!!」



あたしもよく知る人物だった。