先輩の彼女

事態はもう少し、変わっていたかもしれない。

人混みの中だと言うのに、目が潤んでくる。

これから、違う書店にも向かわなければならないのに。


そんな時、携帯が鳴った。

「はい。」

『斎藤?俺だ。』

「先輩!?」

えっ?

私、いつの間に番号教えた?

『ごめんな、仕事中。昨日の本、届けに行ってどうだった?間に合ったか?』


間野さん。

気にして、電話くれたんだ。

優しい。


『斎藤?おーい、斎藤。』

電話の向こうから、間野さんが呼んでいる。

「すみません。ダメでした。」

『えっ?』

「開店と同時に、お客さんが取りに来たそうで。間に合わなかったです。」

しばらく、間野さんからの返事はなかった。

そりゃあ、そうだよね。

間野さん、書店に電話しまくってくれて。

車出して、隣の県まで送ってくれて。

一緒に帰って来た時間、間野さんも夜中だよ?

それで間に合わなかったって。