先輩の彼女

やってきた矢田さんも、暗い顔。

どうしたの?こんな朝から?

「おはようございます。」

「おはようございます、矢田さん。昨日依頼された、あの漫画本。お持ちしました。」

私はカバンの中から、本を取り出した。


「あの、実は……」

矢田さんは、一旦黙ってから、小さな声でこう言った。

「例のお客様。もういらっしゃって……」

「えっ!?」

「もう少しで出版社の方がいらっしゃると思いますから、お待ち下さいと申し上げたんですが、新幹線の時間があるからと言って、結局お渡しできなかったんです。」


そ、そ、そんな!

昨日、隣の県まで行って取って来たのに!

しかも、夜中までかかって!


「申し訳ありません。」

とりあえず謝る。

「いえ。私達もまさか、開店と同時にお客様がいらっしゃるとは、思っていなくて。仕方がないです。」

矢田さんはそう言ってくれたけど、カウンターにいる他の従業員の人から、ビシバシ伝わってくる。