先輩の彼女

みんな買ってた?

この本を?

ちらっと隣を見ると、間野さんと目が合う。

どうやら、間野さんも同じ事を、考えていたらしい。


「しばらくして売れ足が落ちても、根強いファンの人がいてね。そういう人達の為に、たまに入荷してるんですよ。」

「そんな、少数派のお客様の為に……」

私がボソッと呟くと、背中に間野さんからの、強烈なパンチが入る。

「はははっ!分かりますよ。そんな一部のお客様に、いつ売れるか分からないような本をね。でもね、お嬢さん。その本を手に取って、レジまで持って来て下さる人の顔がさ。『遂にこの本を、見つけた!』ってなモノなのよ。それを見ると、堪らなくて。」

年配の人の話を聞いて、思わずその状況が、目に浮かぶ。

「あっ、そろそろ閉店のお時間ですね。」

間野さんが、周りを見ながらそう切り出す。

「ああ、そうですね。遠いところ、わざわざご苦労様です。」

「こちらこそ、遅い時間にお邪魔しました。」