先輩の彼女

「よし、次行くぞ。」

「はい。」

忘れていたけど、数件回らないといけないんだっけ。

またあのファイルを、ペラペラと捲った。

「斎藤。」

「あっ、はい。」

ファイルをカバンの中に入れ、間野さんに付いて行き、自動ドアを通ろうとした時だ。


「斎藤さん。」

「はい。」

呼び止められ、振り返ると矢田さんが、息を切らしながら、私の腕を掴んでいた。

「よかった。まだお店の中にいて。」

私は矢田さんの背中に、そっと手を当てた。

「どうしました?」

「さっきは工藤さんの話で、盛り上がっちゃって忘れてたんですけど。」

その他にも、新人作家のデビューの話もしたのですが。

「発注!発注、お願いしたくて。」

「発注?」

「いつもはFAXでお願いしてるんですけど、発注担当者がミスしちゃって。明日の予約分、取るの忘れてたんです。」

予約分!?

そ、それは大きなミスなのでは?