先輩の彼女

その時、バラバラっと音がした。

カバンの中身を、タクシーの中に、ばら蒔いてしまったのだ。

「あちゃあ~」

急いで中身を拾いだす。

「ほら。」

優しいんだが、怖いんだか。

間野さんは、目の前に転がった財布を、拾って渡してくれた。

「……有り難うございます。」

「これで最後か?」

「ああ……」

急いでカバンの中を、見渡す。

「あれ?」

キーケースがない。

部屋の鍵が、入っているって言うのに。


私は、席の周りを探してみる。

「何か足らないのか?」

「あの……キーケースが……」

「キーケース?」

間野さんも、背中を丸めて一緒に探してくれる。


「ないな。運転手さん、一旦停まって下さい。」

「はい。」

タクシーは、人のいない場所で一旦停止。

ドアが開き、間野さんは外に降りて、座席の下を探してくれた。

「先輩。もういいです。」

「いいわけないだろ。」