先輩の彼女

間野さんは睨むように、話しかけた私を見た。

「偶然だと?」

間野さんの右手が上がる。


うわっ!

殴られる!

咄嗟にカバンで、頭を覆った。


だが、いつまで経っても、頭に衝撃は来ない。

代わりに、道路の脇にタクシーが、停まっていた。

「あれ?」

「乗れ、斎藤。」

あまりの流れの早さに、言葉を失う。

「ああ!早くしろ!」

手を引かれ、タクシーに押し込まれると、次に間野さんが乗った。

「家は?」

「ああ……ここ、真っ直ぐ行ったところです。」

「運転手さん、真っ直ぐだそうです。」

間野さんに言われ、タクシーが走り出す。


「ったく。お前は一体、何をやってるんだ。」

怒鳴られると思ったら、静かにお説教が始まった。

「何って、バイトの子と食事を……」

「食事じゃないだろう!酒まで飲んで!」

時間差で、案の定怒鳴ってきた間野さんに、またカバンで頭を隠す。