先輩の彼女

「そんな事、どうだっていい。君の部屋は、もう直ぐなんだろう?ほら、さっさと帰れ。こいつは俺が引き取る。」

「えっ!!」

酔いが冷めた私は、カバンを抱き締めながら、後ずさりを始めた。

「久実さんは、嫌がってるようですけど?」

「なに~?」

ドスの利いた低い声に、思わずカバンで顔を隠す。

「いえ、大丈夫です。私はもう酔いが冷めたので。」

「だとよ。」

間野さんに言ったつもりなのに、谷岡君にそのまま返してる。

さすがの谷岡君も、呆れてる。

「分かりました。じゃあ、久実さん。お休みなさい。」

私はカバンを取り、精一杯の笑顔を谷岡君に見せた。

「今日は有り難うね。気を付けて帰って。」

私が手を振ると、谷岡君も手を振ってくれた。


私を癒そうとしてくれた谷岡君の背中が、どんどん小さくなっていく。

残されたのは、ここで会うはずのない先輩と後輩の二人。

「……偶然ですね。」