先輩の彼女

すっかりほろ酔い気分になって、お店を出た。

「ご馳走さま、谷岡君。」

「いいえ。僕こそ、楽しかったです。」

本当にいい子だなって、ちょっとホロッとくる。

「駅はあっち?」

私は右側を指差した。

「いえ、反対側です。久実さん。」

谷岡君は左側を指差しながら、私の腕を掴んで、誘導してくれた。


「ごめんね、谷岡君。私、調子に乗って飲み過ぎちゃったみたい。」

「気にする事ないですよ。そんな時もありますって。」

今までの谷岡君だったら、ここで私を見ながら、ニヤッと笑顔を見せるはずなのに、この時は違った。

「久実さん。この前倉庫であった時、泣き腫らした目してたでしょ?知らない振りしてたけれど、ずっと気になってて……でも、今日会えてよかった。久実さんの笑った顔、たくさん見れたし。」

「谷岡君……」

私の腕を引っ張る彼が、急に大人びて見えた。

すると交差点で、谷岡君は急に止まった。