「ご、ごめんないさい…!」

掠れた小さな一言が唇の隙間からすり抜ける。

「…は?」

恐怖からか腰が抜けて立ち上がれなくなってしまった私を見下ろす目が冷たい。

少しづつ大きな黒い影が近づいて私を覆う。

小柄な私にとってすごく背の高い男の人だと感じていたのに、腰が抜けて床に座りこみながら見上げると余計に大きく感じる。

ちょうど陰になって表情は見えなかったが、何より、威圧がすごかった。

震える手で自分のバッグの紐を握りしめて、精一杯の力を振り絞って大きく振ってみせる。

すると、鈍い音と共に目の前の影がフラッと揺れる気配がした。

「…いってぇ」

そんなかすかな声が聞こえた気がしたが、私にはそれを気にする余裕もない。

ガクガクと震える膝で無我夢中に走ってその場を逃げた。



どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

目に涙を浮かべて必死に走る中、今日一日を頭の中で振り返っていた。