「そ、そうなのですか……?」

聞いたのは、自分だが先生からちゃんと答えてくれた。
私は、動揺をしながらも聞いていた。
大学時代のか……。

「まぁ最初は、お互い話した事も無かったが
ただアイツも小説とか読むの好きで
ちょっとしたきっかけで話すようになり
付き合うようになった。アイツは…見た目は、
上品で優等生な女だが意外と抜けているところもあってな。
それにかなりの大食いで甘党。
バケツプリンを1人で食べやがった時は、
さすがに驚かされたもんだ。まぁ…その遺伝は、
睦月がしっかりと受け継いだが」

お酒を飲みながら1つ1つ語り始めた。
それは、懐かしむようで悲しそうな表情だ。
普段無口な先生がたくさん話してくれるのは、
嬉しいけど何だか切なくなった。
お酒の力を借りないと話せない内容のようで

「あの……奥さんが亡くなったのは、
病気だったからですよね?」

「あぁ、元々生まれつき心臓が弱い奴だったからな。
睦月が赤ん坊の頃に心臓が原因でな…」

そうなんだ……。
先生の切なそうな表情を見て思った。
奥さんの事を心の底から愛しているのだと
嫌いで別れた訳ではないのだから当然といえば当然か。

離れたくて離れた訳ではない。
生きていたら睦月君と3人で幸せにココで
暮らしていたのだろう。
それこそ、私の入る隙も無いぐらいに幸せそうに。
ズキッと心が痛みだす。
動揺しながらも気持ちを落ち着かせようとする。

「そうなのですか…すみません。
辛い事を思い出させてしまって……」

「いや、いい。どうせ少しは、河合さんから
聞いているのだろ?隠している訳ではないしな」

そう言いながら先生はお酒を飲んだ。
先生は、もう再婚とか考えていないのだろうか?
奥さんを今でも大切に想っている人だ。
考えている可能性は、低いだろう。それでも

「先生は、その……再婚とか考えていないのですか?」

思い切って尋ねてしまった。だが
「……あれほどの女が現れるなんて考えられん。
これからもな」と冷たく言い放つ先生だった。

ズキッとさらに胸が痛みだした。
聞くのではなかった。
答えなんて想像が出来たくせに…。