「妻は、俺の帰りを待ちながら……心臓病で
自宅のアパートで倒れた。招待されていた大輔が
それに気づいて鍵をこじ開けて発見してくれた。
あの泣かない睦月が異状に泣いていたから
おかしいと周りも騒いでいたらしい。
俺も……連絡を聞いて慌てて駆け付けたが
すでに亡くなった後だった」

「どうやらお金と心配させたくなくて
ずっと病院にも行かずに具合が悪くても黙っていたらしい。
俺は……自分が許せない。
アイツの異変に気づかなかったこと。
あの時だってバイトに行かずにアイツのそばに居たら
死なせずに済んだかもしれないのに。 
アイツの父親もそんな俺を許す訳がない。
俺の身勝手な理由で娘を早く死なせたかったのだから
だから……憎まれても仕方がないんだ」

そう話す先生は、苦しそうに歯を食いしばる。
先生は、奥さんを亡くしたことを自分のせいだと思い
ずっと苦しんでいるんだ。
だから……あんなに切なそうにしていたんだ。
奥さんを愛していたからこそ……。

胸がギュッと締め付けられそうだった。
先生の苦しさと奥さんに対する愛の深さを知った。
すると先生は、立ち止まった。

「ここだ。妻の父親が入院している病室は。
一度……入院したと聞いた時にお見舞いに行った。
父親は、顔も合わせてくれなかったが
母親の方は、親切にしてくれた」

ここに……?
この中に奥さんのお父様が入院しているのね。
何だか緊張をしてしまう。
私は、言うならば場違いの人間。
どうやって顔を合わせればいいのだろうか。

「入るぞ!」

そう言うと先生は、軽くノックする。
「はい」と上品そうな女性の声が聞こえてきた。
奥さんの母親だろう。

「連絡をもらった藤崎です」

「まぁ、どうぞ」

「失礼します」

先生、そう言うと静かにドアを開けた。
私も挨拶をして恐る恐る中に入ると
ベッドで寝ている中年男性と上品な中年女性が居た。

「まぁ、よく来てくれたわね。藤崎君。
それと睦月君と小野木涼花さんだったかしら?」