一層、死んでしまったほうが楽だと思うほど苦痛だ。


 消えてしまいたいほど苦痛だ。


 他人を気遣う余裕なんてない。


 それでも、あかりを思いやれるのは、あかりが好きで、あかりが俺を心底心配しているのがわかったから。


 情けない姿をあかりの前では晒したくなかった、いつまでも格好良いお兄ちゃんと思っていて欲しい。


 今だけでも、この荒れ狂う感情を押し込めないと。


 ほんの一瞬だけでも。



「……あかり。ありがとう。大丈夫だから寝ろ。俺からのお願いだ。聞いてくれるだろう?」



 皮が剥けて、血と砂利が混じる手で触れることはできなかったけど、何とか安心させようと精一杯微笑んで見せる。


 あかりは、目を潤ませながらも、うんと頷いて俺の頭を撫でた。


 それに何だか、少し救われた気がしたのだ。












「瞼が切れてる。部屋に入る前にその血だけ拭いて絆創膏貼れ。汚れる」



 俺へとタオルを押し付ける仁。


 黙って受け取り、よろめく足で何とか歩く。


 あかりのあの小さな手が、俺に覚悟を決めさせた。


 俺には水野が必要なのだ。


 失うことなどできない。