「もう終わりだな。お前は自分の手で終止符を打ったんだよ。最低最悪な形でな」



「………………」



「小春の顔を一瞬だけ思い出せ。恐怖に歪ませておいて、あんな風に泣かせておいて、惚れている女を傷つけて、お前はそれでも小春に会いに行けるのか?寄りを戻せるとでも思ってるのか?」



 自分の腕へと目を落とす。


 そこには地面を這いずった時の傷のほかに、ひっかき傷が鮮やかに刻まれていて。


 俺への失望と仁を侮辱したことへの憎しみの顔を思い出される。


 次に思い浮かべる水野は、俺に襲われて怯えていた泣き顔の水野。


 次に思い出すのは、仁にしがみ付いて、泣いているのであろう水野。


 何をやっているんだ、俺は。


 俺は何をするつもりだった?


 あのまま仁が来なければ、きっと最後まで……


 そんなことをしても、水野を手に入れることなんてできないのに。


 わかっていたはずなのに。


 俺は…………


 あのまま、仁が来なければ水野の心は永遠に俺へ閉ざされたままだった。


 いや、もう閉ざされてしまっただろうか。


 あんなことをしたのだ、もうお終いなのだろうか。



「一瞬で良いって言っただろ。お前が小春を思い出すなんて、厚かましい。わかったか、自分がどんだけ愚かでくだらない人間か」


 首から手が離され、激しく咳き込むと涙が目に滲む。


 その涙が、咳のせいなのかも、自分のしでかしたことに対する後悔からなのかもわからなかった。


 ただ、ただ、水野の泣き顔だけが浮かび上がり、震える手を必死に抑え込んだ。


 もう、仁へ抗う気力はなくなり、ただ、ただ、怯える自分を悟らせまいとそれだけで精一杯だった。