「榊田君のこと好きなのかわからなくなったの」
ほら見ろ、と心の中で自分を嘲笑う。
そうなれば、簡単に次のセリフが予想できた。
もうお決まりのフレーズだ。
可笑しくもないのに笑ってしまいそうになる。
こいつは俺を突き落とす時はこれでもかというほど無神経になるのは、もはやお決まり。
そして、そのどん底に至らしめるキーワードもお馴染み。
「……ふーん。で?無神経なお前らしく、全部吐き出せよ。どうせ、仁が何とかって出てくるんだろ?」
俺の嫌味に動じることなく水野は頷き、続ける。
「仁くんとの結婚を夢見てた、ずっと。仁くんの帰りを笑顔で出迎えて、美味しいごはんを作って、良い奥さんになりたい、って、ずっと夢見てた」
俺に向けていた視線を自分のグラス。
オレンジジュースが入っているグラスに視線を移す水野。
その瞳には懐かしむような、悲しむような感情が映し出されたように見えた。
そして、またまっすぐに俺へと視線を戻す。
「でも、榊田君との結婚を思い描いた時、仕事は続けたいし、一人で過ごす時間も欲しいって、自分のことばかりなの。仁くんの時は、仁くんが喜んでくれるだけで、満足だと思ってたのに」