高層ビルから見下ろす都心の輝きは目を顰めんばかり。
個人的にはチカチカして細かい文字で埋め尽くされるパソコンを彷彿とさせる。
そんな風に見える夜景も水野ならば、大喜びして俺へと笑顔を向けてくれる。
しかし、現実は。
顔は強張り目が泳いでいて、夜景がこいつの目に入っているのかさえ疑わしい。
「この辺り仕事で良く来るところでな。夜景が綺麗だろ?」
「うん。お店も……素敵だし」
突然の呼び出しだったにも関わらず、こんな高い店を予約されて居た堪れなく感じている水野。
それはそうだろう。
なんせ、断るつもりなのにこんな店に連れて来られたら居心地が悪いに決まっている。
「だろ。予約がなかなか取れないところだぞ。ありがたく食えよ」
気休めになるかわからないが、赤ワインを口に通す。
「あ…うん」
考えた末に出した結論を聞くのが怖かった。
この間だって、断られるとわかっていたのにプロポーズするのは勇気がいった。
もう一度聞くことはどうしても出来なくて、切り出そうとする水野を遮って当たり障りのない会話を交わす。
「そういえば、この間……」
「榊田君。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
さきほどまでの、曖昧な口調も泳ぐ視線はどこにもない。
意志の強いはっきりした口調とまっすぐ俺を見つめる視線に覚悟をした。