連絡は思っていたより、早く来た。
プロポーズに失敗した次の週に、メールですぐに会いたいと。
そのメールに気付いたのは昼休み、すぐさま返信し、夜会うことに決まった。
どう頑張っても定時には上がれないが、宮野に早く帰れるように頼むと、ちょっと待ってなさい、と席を立った。
「ロマンチックな彼女なんでしょ?このお店使いなさいよ。あんた運がいいわよ」
差し出されたメモに記載されていたのは、うちの会社の提携でありながらも予約が取れないと言われている店の名前。
「大丈夫なんですか?高杉さん取るのに苦労した、って言ってたのに」
「可愛くない後輩のためよ。その代わり、バッチリ決めてきなさいよ!」
背中を思いっきり叩かれながら、頭を下げる。
今度こそは、この指輪を受け取ってもらうのだ。
何故だろうか、水野は特別目立つ女ではない。
それなのに、この人混みの中でも水野をすぐに見つけてしまう。
水野だけが鮮やかに映るのだ。
早く笑顔を見たいと、逸る気持ちが足を動かす。
水野が俺に気付き、目が合う。
その瞬間、逸る足が途端に止まった。
もう返事を聞く前から水野が出した結論がわかった。
この間と変わらない答えだと。
ゆっくりした歩調で水野の目の前に立つ。
「夕食、店を予約した。行くぞ」
「あっ……うん……」
水野はカバンをぎゅっと抱きしめ、先に歩き始めた俺へと続いた。
付き合ってから変わらなく繋いでいた手に妙に冷たい風が通り抜けた。