「榊田さん。お話があるんです」



「何?」



「あ、あの、ここだと。……ちょっとだけ付いてきてもらえませんか?」



 翌朝、不機嫌さマックスで職場に行った。


 職場で、プライベートを持ち込むなんてガキのすること。


 いつも通りに仕事をこなし、ヤケ酒でも飲んで帰るかと思っていた矢先、同期の女に声をかけられた。


 女に連れられ、通路を黙々と歩く。


 こんなのに大学時代の俺は構わなかった。


 人気のないところまで歩かされるのは面倒くさい。


 偶然か故意か人気のないところだったとしても、一蹴して終わり。


 それを変えるきっかけになったのは水野。


 確か、モップのような長靴……水野曰くはやりのブーツだったらしいのが、俺にはモップ付きの長靴にしか見えなかった。


 その女の印象はそれしかなく、俺自身が何を言ったのかはまったく覚えていない。


 とりあえず、モップをぶら下げ俺の元から走って立ち去った。


 その話をどこからか聞きつけた水野は家で俺を叱った。


 これはいつものことだから聞き流す俺。


 でも、声色が変わったのだ。