「私、仕事が好きなの」
「だから?別に、今まで通り仕事を続ければ良い。水野の職場に近い場所にマンションを借りる。今より楽になるはずだ」
「違う。結婚したら家事だとかそういうのもしっかり、こなさなくちゃとか……」
「何もしなくて良い。家事も全部俺がやる。お前は好きなことだけしていれば良い」
矢継ぎ早に、水野への返答が口から出て行く。
「佳苗さん見てると、子供だって大変そうだし……」
「子供なんていらない」
「私は、結婚したら欲しいもの。ずっと、夢見てた」
「なら、産めば良い。面倒を見たくないなら、見なくて良い。お前は何をしていても構わない」
「だから、そういうことじゃなくてっ!」
水野は髪の毛を強く握りしめた。
そこから覗く、表情は苦痛に歪んでいて。
要するに、俺と結婚したくないわけか。
言い訳がましい理由を並べても、結論はそこなのがわかった。
「混乱させて悪かった。時間はやるからしっかり考えてくれ。結論が出たら、連絡しろよな」
水野の表情に自分の中の怒りが消え、残るのは失望だけ。
頷いたのを見届け、立ち上がる。
ごめんなさい、と掠れる声が耳に入ったが聞こえないフリをして部屋を出た。
外に出ると、すぐに空を見上げる。
ため息など出ないくらい、大ダメージを受けたゴールデンウィーク最終日。