「もうっ!そうやって、すぐに張り合う!わかってますよ。榊田君が何でもできちゃうことくらい」



 何でもできるか。


 そう思っていたけど、水野のことで順調にいった試しがない。


 いつも、失敗ばかり。


 俺に水野の心を思い通りにすることはできない。



「そもそも、瀬戸の彼氏をお前が自慢することがおかしいんだよ」



 フグみたいに膨れっ面をする水野に、俺まで緊張の糸が切れそうになる。


 それからも他愛もない話をした。


 ケーキもなくなり、紅茶も飲み終えた。



「あ、紅茶の葉っぱ変えてくるね。ちょっと、待っ……」



「お前、油断してるだろ?」



 立ち上がった水野の腕をひっぱり、自分の方へ引き寄せた。


 その瞬間、強張った顔で俺の手を引きはがそうとする。



「待って!さか……」



「結婚しよう」



 水野の言葉を遮り、伝える。


 パーカーのポケットに入れてある四角い箱を意味もなく握りしめる。



「結婚しよう」



 もう一度伝えると、水野の止まった時は動きだし、目線を下へと向けた。


 それは、恥ずかしさから来るものではなく、困っているからだと表情を見れば一目瞭然。


 しばらくの沈黙の後、水野は申し訳なさそうに口を開いた。