「……榊田君、どうして?」



「仕事終わってたのか、今日はさすがに早かったな」



 連絡なしに水野の家を訪ねると、水野は虚を突かれたのと、嘘を吐いている心苦しさから目を泳がせた。



「あ、うん。そうなの。それより、いきなりどうしたの?」



 俺はその嘘に気付かないふりをして、許可を取らずに部屋へと上がり込む。



「ケーキ買ってきたから、一緒に食おう。夜食にぴったりだろ?」



 とりあえず、上がり込むことには成功した。


 しかし、通いなれた恋人の家に嫌な汗を掻くハメになろうとは。


 緊張をおくびにも出してはいないが、こんなに手に汗が滲んでいると、心の中でため息を吐く。











「美味いだろ?瀬戸おすすめのを買ってみた」



 水野は二人分の紅茶を用意すると、俺の向かいに座る。


 その表情はこわばっているのがわかり、俺の予想通り。



「小夜ちゃんと会ってたの?」



「ああ。夜は彼氏と待ち合わせとか言って帰って行った」



 広也に会ったことは言わないが得策。


 知らないふりだ。



「そっか。小夜ちゃんの彼氏さんて、会社の先輩ですごく格好良いのよ」



「会ったことあるのか?」



「ううん。写真で。爽やかでね、英語も堪能だって」



「俺だって、英語くらいできる」



 順調だ。


 こいつの警戒心を解くのが先。


 俺が何も気づいていないと、安心させるのが先。