先輩にあたる人間だから、振り払うのも失礼かと巻き付いていた腕が緩んだところでそっと離す。
宮野は左目と左の口の端を吊り上げて笑った。
それでもプライドからか、不気味な笑みを極上と言われるらしい魅惑的な笑みに変えた。
「あら?そんなに慌てて離しちゃって。本当は感じちゃったんでしょ?」
「ええ。ものすごい嫌悪感をね」
そこで、宮野はわなわなと震えだした。
もうこれで、悪趣味なからかいは終わりだろうと焼き鳥を手に取ろうとしたら、突然俺の身体が揺れた。
「榊田!!お前、失礼だぞ。謝れ!」
俺を揺さぶる同期を制したのは、その一部始終をみて笑い転げていた高杉さん。
「さ、榊田君。君は面白いね。いや、京香はこういう悪ふざけが好きで、不愉快な思いをさせてしまって申し訳ない。何とか、許してくれないかい?今度奢るからさ」
「高杉さんがそうおっしゃるなら。それに直属の先輩と揉め事は起こしたくないですし水に流します」
それにまた可笑しそうに笑うと宮野を無理やり引きずるようにして去って行った。
そしてこれが、俺の馬車馬生活へのきっかけになったのだ。
一年、馬車馬になりながら、この出来事を何度も恨む日々。

