「嘘。首筋掻いてるよ」



 俺は何と言うべきかわからなくて、悪い、とだけ返した。


 この、悪いは何を意味しているのか自分でもわからない。



「……私は榊田君のことが好きだし、今の榊田君が誰よりも誠実な人だって知ってる」



 俺をまっすぐに見て話す水野をまっすぐ見返す。



「だから、少しは私とのデート楽しんでるような顔してよ」



 真面目な顔を崩し、茶化すように笑った。



「俺はいつもこんな顔だ」



 そう言うと、水野はそうだね、と更におかしそうに笑う。


 無神経なところがあるけど、こうして俺を救ってくれるのだ。


 こいつの言葉で仕草で表情で、俺は救われている。


 今日は特にそうだなと思いながら、運ばれてきたモンブランをそのまま水野に差し出す。


 これはいつものこと。


 甘いものは嫌いではない。


 でも、水野の喜ぶ顔のほうが圧倒的に価値があるから自然としてしまう行為。



「もう、榊田君が頼んだものでしょ?それに、二つも食べたら太る」



「俺は一口で十分だ。お前はバタバタ騒がしいやつだから、それでカロリー消費してる。安心して食え」



 水野の膨れる顔を見ながら、やっぱり手放せないと、いつもいつも何度でも繰り返し思うのだ。