仁くん、仁くんと、屋根に向かって笑顔を振りまいた。
仁にだけ。
俺のことなんか、雪と同化して見えていなかった。
そんな俺を、仁は憐れむように笑ったのだ。
仁に負けることなど、俺のプライドが許さない。
俺は何事もそつなくこなす。
そう、雪下ろしだって慣れれば。
俺は生まれながらに備わった才能に努力とやる気を加えた。
雪下ろしに命を懸けた。
そんな俺はまさしく無敵。
「お?初心者にしてはなかなかやるじゃないか。お前はここまでで良いぞ」
年寄り世帯の雪下ろしも手伝い、三件目。
仁は俺に三分の一を任せ、他は俺がやると言ったのだ。
ムカつくことこの上ない。
「はぁ?半分に決まってるだろ」
「半分?俺と小春で先に帰って良いのか?悪いな」
さすがは性悪。
そして、喧嘩は勃発した。
俺も仁も運動神経には自信がある。
特に、俺は。
屋根から落ちるようなヘマはしない。
しかも、ちょっとしたおふざけみたいな喧嘩だ。
本当は屋根から突き落としてやりたかったが。
でも、それでもマズかった。
水野は本気で怒った。
怒りから涙が零れんばかりに。
もうこれには、俺も仁も立つ瀬なし、大いに焦ってそれこそ屋根から落ちるとこだった。
必死に謝った。