知り合いかと、歩きつつ目を凝らすとその女と目が合った。
目が合った瞬間、女は口元を吊り上げ、俺は歩くことをやめ立ち尽くした。
そこにいたのは、この世で一番水野に会わせたくない、会わせてはいけない女だったのだ。
だから、俺は一歩も動けず何も発することができなかった。
あの時と同じように。
不意をつかれ、何も考えることができなかった。
「俊君。久しぶり。こんなところで会うなんて偶然ね。これで二回目よね?」
俺に近寄り声をかける女に俺は何も言えずにやはり立ち尽くしたままだった。
「明美お姉さんのお友達なんだってね。すごい美人さんだね」
何も知らないかのように水野はいつも通り。
本当に、何も知らない?
何も聞いていないのか?
「あら?可愛いお嬢さんにそう言ってもらえると嬉しいわ。俊君の彼女さん?名前教えてもらっていいかしら?」
「水野小春です。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をする水野と女を見ながら、頭は混乱したままであったが動き出す。
本能的に。
この女と水野を早く遠ざけなければ。
それでも、あからさまにしたら、やましいことがあるとバレてしまうのではないか。
ここまで築き上げたものが全てなくなってしまうのではないか。