「何か買いたいものがあるのか?俺が買ってやる」



 初めてだった。


 水野がこうして、二人きりでどこに行きたいと主張するのは。


 デートらしいデートを主張しないのが俺の不満でもあった。


 榊田君と過ごせるだけで、幸せとか。


 榊田君がいるだけで、何もいらないよとか。


 他のやつに惚気かよ、と突っ込まれるほどデートとか物欲が欠けているのだ。


 それを良いことに、ベッドに連れ込んでいる俺が不満と言うのもおかしい話だが。


 とにかく、そんな水野がデパートに行きたいと言ったのだ。


 都心のデパートと言えば、デートに加え、物欲もあるということだ。


 何が何でも叶えなければと、俺は水野の肩を掴んでじっと見る。



「来月、榊田君誕生日でしょ?メガネプレゼントしたくて。候補はあるんだけど、付けてもらわないとわからないし、視力も……」



「何だ。俺の誕生日プレゼントか」



 洋服かカバンか靴かと頭を巡らせていただけに、俺はがっくしと頭を下げた。



「何でがっかりするの?メガネじゃないのが良かった?でも、メガネは必要だと思うし」



「どうして、俺が視力落ちたのがわかったんだ?」



 日常生活は裸眼で十分だが、パソコンをする時にメガネが欲しいと思っていたところだった。


 何も話していないのに、タイミング良くメガネのプレゼントとは。



「もう!何度も言わせないでよ!いつも榊田君を見ているから」



 怒りながらも恥ずかしそうに水野は言った。


 それが、やっぱり嬉しくて、物欲はともかくデートのほうはできるから良いかと水野を抱きしめた。