水野の実家に足を踏み入れるのはいつも緊張した。
毎年、行っていても。
だが、今日ほど緊張することは後にも先にもない。
張り詰めた空気、おじさんのオーラに俺は一瞬立ち尽くした。
一瞬だけだ。
今日は討ち死に覚悟……死ぬのはごめんだが、気持ち的な意味ではだ。
水野とおばさんは笑顔で出迎かえてくれ、水野はこっそり目配しをして頷いてくれた。
何とかおばさんを味方にしてくれたらしい。
電話越しにおばさんと話した時のそっけなさは仁が言ったとおり俺に対する憤りだったと確信した。
まったく仁には頭が上がらなくなるばかりではないか。
仁の入れ知恵とおり説得をして活路を見出した。
手土産を渡し、お茶菓子が用意された席に着き、形式的挨拶をする。
形式的な挨拶が終わり、俺は形式的な結婚の承諾のお願いを申し出た。
それに対して、おじさんは怒りを押し殺すような目で俺を見据えて何も言わず。
沈黙が流れた。