「最初から言わなきゃ良いのに懲りないよね」
と美玖は馬鹿を見るような視線を俺に向けた。
水野が俺の弱点だとばかりに、水野を盾に喧嘩を吹っかけてくるのだから、こいつも本当に質が悪い。
とりあえず、水野を家の前で下ろし、俺たちは顔を見せることなくホテルへ。
スーツもこの日のために新調したし、髪も切った。
明日のことを考えると食事も喉に通らない。
人並程度の食欲しか。
「あんた、小春さんの前だとあんなに柔らかく笑えるのね。話は聞いていたけど、目のあたりにして驚いたわよ。こんなことって起きるのね」
お袋は頬に手を当てて息を吐いた。
水野を見る表情が他とは全然違うと言われて、学生時代に水野に夢中だとからかわれていたのは、それが所以。
マイナスイオンの海の心地よさは俺を溺れさせる。
水野のことを考えて、俺に復縁と結婚承諾のチャンスを与えてくれた仁。
俺はその与えられたチャンスを逃さず、何が何でも結婚の承諾を明日はもらう。
仁に下げる頭に比べれば、親に下げる頭なんてハードルは低い。
……僅か差ではあるが。

