「仁くんたちも明後日には来れるって!」
仁からの電話だとわかった瞬間、携帯を形見のごとく抱きしめて廊下に出た水野は、居間に来るなり不吉なことを叫んだ。
彼女の幼馴染であり、初恋の相手であり、大失恋の相手であり、神様である三原仁。
そんな水野が崇拝する仁は、俺にとってはまさに疫病神である。
仁のせいで、数あまたに及ぶ煮え湯を飲まされたことか。
俺の不愉快さとは対照的に、水野家は嬉しそう。
何故、おじさんまでこんなに嬉しそうなんだ。
俺との扱いの差に不平を言いたくなる。
だが、そんなことをしたら今までの努力が水の泡。
だから何も言わない。
「男手が三人になるし、雪下ろしもはかどるわ」
実用的な意味でもおばさんは喜んでいる模様。
さすがは、おばさん。
「私も手伝うからね」
「屋根はダメだぞ」
俺はすかざず止めに入る。
それに、おじさんも大きく首を縦に振った。
こういう点は、仁も含め三人で気が合うのだ。
「もう、毎年うるさい。わかってるわよ。それより、榊田君。屋根の上で仁くんと喧嘩なんかしたらダメなんだから」
おじさん譲りの涙目の睨みは怖いというより、可愛い。
こんな目で見られたら、いつもならあやすという名目で抱きしめるのに。
可愛いが俺にとって何よりも効果は抜群。
俺には肯定の言葉しか出ないのだ。
「わかった。善処する」
「善処じゃない。絶対に!」
「……わかった」
そう、あれは最初に屋根の雪下しを手伝った時。
初心者の俺に対して、仁は容赦なしに力の差を見せつけた。
さっさっさ、と屋根から雪を落としていく。
そんな仁を見て、水野はすごいと、ぴょんぴょん跳ねていた。