目が覚めて、家を出るまでかかった時間は一分もないほどの早業だ。
夢でも何でも我慢できない。
水野の家に行こう。
そう決めたら俺のことは誰も止められない。
全力疾走で駅に向かって走る。
途中で自転車に乗ってくれば良かったと気付くも引き返えすことが惜しくて自転車追抜かして走った。
「お~い!榊田君!どこに行くの?急ぎの用事?」
車の走行音に紛れて聞えた、この声……
声の先を見ると反対側の道路で水野が買い物袋を抱えて手を振っていた。
俺すぐには止まることが出来ず、電柱を掴んで勢いを殺し、今度はガードレールを飛び越えて水野の元へと走る。
大量のクラクションが鳴らされたが俺の知たっことではない。
「ちょっと!危ないでしょ?何かあったの?」
「何かあったの?じゃない。目が覚めたらお前がいないから驚いただろ」
やっぱり夢じゃない。
昨日見た、白いロングスカートも俺が放り投げた赤い靴も夢ではなかったことを裏付ける。
「そうだったの?ごめんなさい。榊田君が良く寝ていてから勝手に出て来ちゃった。冷蔵庫に何もなかったし」
「……朝食か?」
「うん、卵焼きも作るね。……あっ、榊田君、ボタン段ずれしてる。しかも、髪もぼさぼさだし。榊田君みたいな人は人一倍だらしなく見えるよ」
懐かし過ぎる、水野のお小言。